成長譚というヒーローズ・ジャーニー『やんちゃな男の子とギターの物語』

2017.1.26

知り合う、とうことが好きです。相手に興味を惹かれ、知りたくなる。よく考えてみると、私の側からの意味では“合う”=“お互いに”という意味からは、外れます。『知り会う』と表現すべきかもしれない。
インターネット上だけのやりとり、顔も知らず声も知らずであっても、興味を惹かれる人に出会う。むしろ、視覚的な情報での先入観がないから、よりクリアにその人を感じることもあるのかもしれません。
そうやって知り会った方の人生の一区切りを、ヒーローズ・ジャーニーという視点から物語として紹介させていただいています。
ヒーローズ・ジャーニーで読み解く『僕の婚約物語』 では、かんた( @Kanta_USA )さんご本人がブログに書かれたものを基に、分析をさせていただきました。
今回はTwitterのDMを使い、コージ( @kouji_yama1026 )さんにインタビューさせていただいての分析を試みました。

guiter

はじめに:ヒーローズ・ジャーニーとは

かいつまんで言うなら、こうなります。
神話学者であるジョーゼフ・キャンベルによって、世界中の神話には数多くの共通点があることが発見されました。それを基に、クリストファー・ボグラーが体系化し、ハリウッドでシナリオ分析にも用いられたもの。
もう少し詳しくは、私自身のヒーローズ・ジャーニー で図解しています。よかったらご一読ください。

ギターをめぐる物語

物語は、主人公が中学1年生の時期に幕を開けます。若く、生命力にあふれた少年は、やんちゃな毎日を過ごしています。

テキトーに、はみ出してるのがカッコイイみたいな。
ただのヤンキーでした。

主人公のヒーローとなったのは、ロックバンドの LUNA SEA。そして、髪をピンクに染め、ピアスをしていたひとつ年上の“先輩”でした。最初はカッコウを真似ていただけでしたが、2年生になって親からギターを買ってもらいます。少年が情熱を注ぐものとの出会いです。
向上心と負けん気の強い主人公は、ギターにのめり込みます。“先輩”にも、厳しくしごかれたようです。

ひたすら練習しました!学校なんて半分位しか行かないで(笑)
弾けない事が悔しくて、朝から晩まで練習しました(笑)
同学年で1番上手くなりたかったし、毎回発見があるのがワクワクしてましたね〜

中学卒業が迫り、主人公は音楽の学校に進学しようとするも、親に反対されます。新しいギターを買い与えられるのと引き換えに、高校へ進学。
ロックな生活を謳歌するも、あっさりと学校を辞めて美容師になります。このあたりで、音楽好きなら誰もが一度は目指すであろうプロへの憧れも熱が冷めたそうです。

なんか流行りが去ったみたいに、一気に冷めました。
ギターは全然大好きで、ライブよりギターがある生活が好きでした。

美容師を1年ほどで、現在の仕事に転職。そして、20歳で結婚。
この頃には、年に1本ぐらいは新しいギターを買っていたそうです。現在までに所有したギターの総数は25本。中には、1本で100万円ほどのものもあったとか。
主人公は3人の娘をもつ、父親になっていました。順調な日々に、不景気影が忍び寄ります。
そんななかでも、後に主人公を後悔させることになる、運命のギターとの出会いがありました。ストラトキャスターという種類の1本だそうです。しかし、彼はそれが運命だと気づかず、1年ほどで手放してしまう。
その後も2本のギターを手にするも、手放したギターが自分にとって最高のものだったと知るに至りました。
不景気が深刻化し、主人公は自分の趣味の一切を諦めます。ギターに触らない2年間。

家庭もあるし、なるべく見ないようにしてました。
不景気って完全に地獄でしたし。
でも、そのおかげでお金の大事さや家族のありがたみも良くわかって成長しましたし。
今思えば良かったですねw
一度根本から覆されて。

試練をクリアした主人公は、たまたまネット検索で、手放した運命のギターが売りに出されていることを知ります。かつて自分が手にしていたときの状態とは違っているのではないかという不安もあったそうです。しかし、状態はとてもよく、幸運にも取り戻すことができました。

楽しいし、安心ですね。
やっぱり1番気に入ってるのがこのストラトなので。
取り戻したって言うより、慰謝料払って戻ってもらった感ががが(笑)

物語はハッピーエンドで、いったん幕を下ろします。

さて、図解して、分析に入りましょう。

ヒーローズ・ジャーニーに照らしあわせた分析

コージさんには「ギターでヒーローズ・ジャーニーを書く」と、お約束をしています。たくさんのギターの中から、最高の宝物となる1本と出会い、それとは気づかず手放してしまい、その後取り戻す。とても素敵な物語です。
図で見ていただきます。

コージさんのヒーローズ・ジャーニー

今回やりとりをして、一番感じたのが、これは「趣味のギター」の枠におさまらな物語であるということ。私の言葉で表現するなら『憧れと現実の物語』あるいは、『一人の少年が大人へと成長するイニシエーションの物語』です。
なので、直感に従って、少し突っ込んだ分析をさせていただきます。

1.準備:日常の世界

ヒーローズ・ジャーニーでは、最初に日常の世界が描かれます。スペシャルワールドとの対比を明確にする狙いもありますが、もっと大切なことがあります。最終的に、主人公は日常に帰還するのです。ヒーローズ・ジャーニーの目的、主人公が旅にでなければならない理由は、日常によりよい変化をもたらすことです。覚えておいてください。

この物語では、主人公の日常の世界は、力を持て余してしまう世界です。主人公がやんちゃなのは、パワーが余っている証拠です。強く、そして焦点を与えられていない力は暴走する傾向があります。自己破壊的で自滅的な行動へと駆り立てられかねない。主人公は、ヒーローを見出すことで力を使うべき目標を見出したと解釈しました。
憧れや向上心といった、上位無意識レベルに存在するものの萌芽です。
使者の役割を果たす、LUNA SEA や“先輩”に刺激され、スペシャルワールドへの呼び声を受け取っています。主人公は呼び声に逆らうことなく、親御さんにギターを買ってもらうことで、スペシャルワールドへと入っていきます。憧れを追いかけて

2.旅の最中

第一関門を突破した直後は、新しい世界のルールを学ぶ期間です。仲間を作り、敵の影を見るのもこの時期です。
主人公は、音楽の学校に行こうとしたのに、親の反対にあっていますね。意に沿わずして入学した高校では、たくさんの仲間と出会っています。
ここで私が興味深く感じたのは、親御さんの役割。複数を演じていると考えられます。なぜなら

  • 主人公に、役立つもの(ここではギター)を与えるのは、メンターの役割。
  • 主人公が進もうとした(音楽の学校への)道を阻止するのは、門番の役割。
  • 主人公に味方し、時には敵対するのは、変化するもの=シェイプシフターの役割。
  • 主人公と正反対の気質なら、シャドウ=敵の役割。

4役をこなしていることが推測されます。味方なのか、敵なのか。それすらも、この物語では、はっきりと区別ができません。
ヒーローズ・ジャーニーでは、門番を“試すもの”として捉えます。主人公が冒険の旅に価するだけの人物であるかを試すのです。門番に対し、どんな態度をとったかで、その後の旅に影響することがあります。門番は、敵として打ち負かすか、味方にして仲間にしてしまうことも可能です。
また、シャドウは、主人公の内にある「生きられなかった半分」と捉えます。名作、アーシュラ・K・ル=グインの『ゲド戦記』に顕著です。ゲドは最後には、敵を自分の真実の名で呼び、統合しています。統合することによって、ゲドは“全き人”となりました。

高校を辞めたあたりで、主人公は1度目の変化を遂げています。プロミュージシャンになりたいのではなく、ギターという楽器そのものが好きなのだと気づいています。感覚的な自己分析力に優れていますね。また、この主人公は、機知に富み、突飛とも思える発想力があり、機敏に行動するトリックスター=いたずら者としての資質も備えていると思われます。

転職してからは、伴侶を得、家庭を得て、経済的にも安定し、たくさんのギターを手にすることもできる、旅の報酬を受け取っています。
宴の後に主人公を待つのは、肉体的・精神的な死です。

不景気による『地獄』は、主人公が英雄として帰還できるかどうかの試練。情熱と憧れの象徴、ギターと切り離された2年間がそれです。
また、この部分では、主人公にとっての2度目の変化があります。重要な部分です。変化しなければ、帰還することができない
ヒーローズ・ジャーニーの目的は、日常によりよい変化をもたらすことです。主人公その人だけでなく、主人公が所属するコミュニティにとって、よりよい変化をもたらすもの(宝)を持って帰還しなければならない。宝とは、物語ならば魔力の宿る品、値のつけられぬ秘宝、囚われの姫君、などなどですが、現実に生きる私たちにとって、何よりの宝は経験でしょう。つまり、スペシャルワールドにおいて、何を学び習得したのかが試されます。ご本人が、まとめてくれていたましたね。『お金の大切さや家族のありがたみもよくわかって成長』した、と。帰還の証です。
蛇足になりますが、家族はコミュニティの最小単位だと、私は捉えています。ここから始まる。英雄となった主人公は、輪を広げていく定めです。家族から、隣近所、町…と輪を広げ、社会や世界に(意識的なものでなくとも)、影響力を拡大していくことになっています。ギターブログを始めたことは、インターネットを用いて、より広く開かれた世界へと宝を分けようとする行動と解釈します。

そんな僕ですが、それでもこの20年で知り得た知識も持っています。
好きだからこそ集めたこの知識を誰かの役に立つことができないかな?と考え、楽曲ではなく文章での発信に挑戦をしてみようと決めました。
『ギタリスタ』プロフィール より

私たちの使命は、自分の好きで得意なことを可能な範囲で行うことにあると、私個人は考えます。どんな小さなことであっても、波紋が広がっていくように、よい変化は拡大します。現実に私たちが成すのは、本人が「なんだそんなことか」と思うほど小さいかもしれないけれど、本人が想像する以上に豊かな可能性を有しています。
以上で『やんちゃな男の子とギターの物語』の分析を終えます。

さいごに

今回は、コージさんとギターとの関わりを成長譚という視点から、ヒーローズ・ジャーニーに照らして分析させていただきました。
ごく普通に生きる、私たちの誰もが、コージさんのように英雄となり得る。あるいは、もう英雄として、また旅に出ている方もいらっしゃるでしょう。私たちは、物語を生きている。かけがえなのない、ひとりひとりの『自分の物語』に、気がついてね。