インテリたちに優しくしてあげてください。
主人に対し「わんコちゃんは貴族にゃから」と言うのを、最近とても気に入っている。冗談半分の、茶化すような気持ち。
さて、どうしてそうなったんだったかな?
きっかけは、忘れてしまった。
思い出せるのは、主人の(これまでの)会社の話を聞いていたこと。
主人は一般事務職の女の子たちというものを知らないのだと言う。
たぶん、職業人口としては多いはずなのに。
私は一般事務職だった。だから、主人が知る唯一が私。
私を見て「一般事務職はこんな」と思ってもらっては、イメージを誤解することになると思う。
たぶん、世の中的に意味するのは、私の知るところだと総務とか人事とかにいるような、よくも悪くも女らしいおとなしいタイプの女の子たちだろうから。
私は販売部で育ってる。戦わないと潰されるような現場で育つと、女性特有とされる細やかな気遣いや優しい思いやり等はなくなっていく傾向にあるのだ。
主人の会社には、そういった女性の長所を失いも損ないもせずに、仕事のデキル女性たちがいるのだという。
私にとっては、ユニコーンが実在した!ぐらいの驚きだった。
彼女たちがどんな仕事をしているのかというと、知識的な専門性が高く、対人スキルも必要とされるようなもののようだ。
なるほど、対人スキルには、女性特有とされる才能は活かされるだろう。うってつけとも言える。
主人には、一般(多数決的な意味、統計的な意味での“多”)に疎いところがある。その部分を指して「貴族」と言っているのもある。ほら、「貴族」ってシモジモの者のこと、知らないじゃない?
もうひとつは、彼がいわゆるインテリというマイノリティ(=社会的少数者)であること。「貴族」って、絶対人口は少ないじゃない?
マイノリティと言うと、なぜかイメージとして社会的な弱者を思い浮かべる。数が少ないというのは、生き残りに不利だからかもしれない。
マイノリティの悲しみは、数少ないがゆえの理解されづらさも挙げられるかもしれない。
世の中的にそつなく溶け込めるような、ごく普通にオシャレで遊びを知っていてコミュニケーションにも抜かりのないインテリもいるのかもしれない。
主人に関しては、オタクなインテリなのだ。
オタクとは、ここでは、軽視や蔑視や嘲笑の含みはなく、とてもコアな専門性が高い人たちのことを指す。
悪い言い方をすれば「ソレについては天才的だけれど、世の中的にヘンな人」。この傾向は、私の知る限りでは、数学に傾倒している人に多いようだ。
普通と呼ばれる人たちであれば、学生時代、社会勉強に割いていた時間を、インテリたちは教科書や参考書や各種実験などに費やしている。
なにに、どうやって時間を使ってきたかという点。誰にでも等しく、一日は24時間。専門性の高い高度な知識を有するまでには、相当な時間がかかっていると思われる。つまり、社会勉強をする時間はなかったろうなと言いたい。
空間としての狭い場所や、限定されたコミュニィテイとも呼べないぐらいの数人としか関わってこなかったというイメージがある。どこかの研究室、なんていうイメージだ。
一般的な常識━━若者たちがするような遊びや、多様な人間との関わりの中で当然培われるはずのある種のコミュニケーション術━━を身につける時間はないだろう。よって、見た目も、言動も、「ヘンな人」ができあがる。
これには、彼らオタクなインテリの、興味の対象の一般的でなさ、という要素もある。一般的でなく、さらに、ごくごく限定された興味関心の持ち方。
そうでなければ、専門的で高度な知識は得られないかもしれない。
インテリたちって、お仕事ないんだよね。そこまでの専門性や高度な技術の需要は少ないという意味。しかも、その価値は理解されづらく、買い叩かれる傾向もあるようだ。
悲劇だな。好きで、好きだからこそ突き詰めてしてきたことの価値を認められもせず、買い叩かれ、しかもコミュニケーションも下手。徹底的に理解されない、マイノリティ。
「勉強なんてしたって社会で役に立たない」とか言われちゃって、間接的に自分たちの好きなものを悪くも言われてる。
主人と暮らして、6年ぐらい。最近やっと、彼が「インテリ」であることがわかり、つらつらと、こんなことを考えていた。
ごめんね、凡人で。理解してあげられなくて、ごめんね。
これまでを振り返って、そんな気持ちになった。
インテリたちに優しくしてあげてください。理解のされなさは、専門性や知性の高さにかかわらず、好きなことを突き詰めてしてきた個性的な人たちと同じだし。
オタクなインテリたちは宇宙人と同じように、一般人と使ってる言葉も違うかもしれないけれど、本物のインテリならば「それなに?」って訊いてあげさえすれば嬉々としてわかりやすく説明してくれるから。彼らも理解されることを喜ぶんだよ。
宇宙語を話していても同じ人間なので、悪く言われれば傷つくし、攻撃されれば反発する。
見た目は日本人なのに、外国人と同じくらい文化的に異質な部分もあるから、理解しづらいし、コミュニケーションの仕方も独特だけど。それにしたって、慣れるのにちょっと時間はかかるかもしれないけれど、彼ら、基本的に頭がよく優秀なので、教えてあげれば覚えるし。
主人と暮らしていて思うのは、彼らオタクなインテリは個性的な人々であり、とてもおもしろい。癖になるおもしろさがある。
そういう人々を、私は愛を込めて「ヘンタイ」と呼ぶ。
…「貴族」とは、ずいぶん響きが違うな。