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夜の銀座でスキップしてた。

どちらかと言えば、父方は下戸、母方は酒豪の家系らしい。

社会人になって、会社のおじさまがお酒に誘ってくれるようになった。
赤提灯とか焼き鳥屋ほどではないけれど、おじさんぽい、行きつけの飲み屋さん。
行けば、店内に女の子は私だけ。ママさんや板さんにかわいがってもらったっけ。
2時間ていどで、コップに一杯のビールがやっとだった。父方の血を濃く受け継いだのだろうと思っていた。
おじさんたちといるのが好きだった。
ほやほやの新人で、会社のこと、社会のこと、まして常識すらもまるでわかってないワカゾウだった。
おじさんたちの話を聞いているのは、好きだったし、とても楽しかった。

憧れるような女友達と出会い、遊びに連れて行ってもらうようになって、お酒を呑めるようなになった。
呑める、というか、ただ飲んでた。勢いで。
ここで初めて、酔っぱらうのを覚えた。それまでは、頭が痛くなったり、気持ち悪くなる方が先だった。

「練習してるの」と友達に言った。「白ワインのハーフボトルを毎日飲んでるよ」
今もそうだけど、ワインについてなにも知らない。飲みやすかったから、だけで選んだお酒。
「このぐらいの大きさの。ハーフだよね?」
手で示したのを見た友達が爆笑した。「それ、フルボトルだよ!」
どうやら、私がフルボトルだと思い込んでいたのは、マグナムボトルだったらしい。
友達は、しばらくの間、飲み会でネタにしていたっけ。

ワインを量飲めるようになると、おじさんたちが呑んでいた芋焼酎も飲めるようになった。
匂いがね、好きじゃなくて、おじさんたちはお湯割りしてたのを、私はロックで飲んだ。
慣れてしまえば、匂いもどうでもよくなり、家でも薩摩白波を呑むようになった。

このあたりで、お酒を“飲む”から“呑む”になってる。
その頃には、酔っぱらうことが楽しくなってた。

みっともない、と思っていた。酔っぱらいの、酔っぱらい的な振る舞いや、だらしなさ。

女友達に連れて行ってもらっていた数々の“飲み会”。彼女は、ヒドイオンナだった。彼女は、愛される女の子だった。
私は彼女を吸収した。
夜の銀座を、酔っぱらってスキップした。30前後の頃。

誰にどう思われようとかまわなかった。
女友達を見ていて、それでも許されるんだ、を覚えた。
解き放たれた気がした。
男の子なんていらなかった。楽しむ私たちを見て楽しんでるおじさんたちもいた。

なにがどうでもよかった。
自分なんてどうなってもよかった。
死にたいほどに自分を嫌いだった。
死にたいほどに嫌いな自分なら、いっそどうなってもいいじゃないかと思えた。

一見すると否定的に響く言葉だろう。動機は、たしかにそうだ。
しかし、肯定的に働いた。
それまで自分を縛っていた『~ねばならぬ』から自由になり、変化していくことができた。

酔っぱらいはみっともない? いいじゃない、みっともなくたって。
ヒトに迷惑をかける? いいじゃない、喜んでお世話してくれる人がいるもの。

やってることは自暴自棄の極みだったかもしれない。
けれどね、格好のいい言い方をすれば、創造には破壊がつきものなんだよ。

よい子だった自分を壊した。

電車の中で倒れたこともあった。「ここに座ってください」助けてもらって、誰にお礼を言ったらいいのかわからず、周りに頭を下げて、気まずいおもいで自分の駅でおりた。
じゃあね、と別れてから、どうやって帰ったのか? 目が覚めると、ちゃんと着替えておふとんだった。歯を磨いた跡もある。
友達がゲラゲラ笑いながら「昨日のこと覚えてる?」電話をもらい「覚えてない」。
そんなこと、しょっちゅうだった。

お酒ゆえの失敗。もちろんなかったわけじゃない。嫌なおもいはいくつもした。でも、こわいおもいは、ほとんどしてない。奇跡かもしれない。

友達は、けして歳を言わないことにしていた。若く見える彼女。
彼女を好きな男の人のひとりに、カマをかけられたことがあるようだ。
「彼女のことは彼女に訊いてください」にっこり笑って私は応えたのだと、本人から聞いた。
覚えてない。
けれど、私は大丈夫だ、と思った。記憶をなくすぐらい泥酔してるのに、秘密を守ったのだ。
自分を信用できた。

いつもいつも気を張っていなくていい。
だめでもいい。
私は大丈夫。
けしてしてはいけないと思っていたことをやってみた結果、得られたのは自分に対する信頼だった。お酒が教えてくれた。

あれから、もう10年以上が経つ。
振り返れば、荒れてたねと苦笑もする。

ダメでもいい。
そう思えるようになって、生きることも、ずいぶんラクになった。
だって私は大丈夫。
私は私を信用している。