女の子たちの魔法
女の子たちは、鏡の前で、自分に魔法をかける。
30前、合コンで知り合った女性がいた。小柄で、華奢で、色が白く、女の子らしいかわいい顔をしていた。彼女にお持ち帰りされてから、仲良くしてもらった。
それまでとはまったく違う経験をさせてもらったし、服の選び方と、メイクのしかたを教えてもらった。
彼女に連れられて、銀座で遊んだ。ちょうど、変わりたいと思っていた。
死んじゃいたいぐらい、自分のことが嫌い。なら、どうなってもいいじゃないか。
女の子は外見で、ヘアスタイルや体型、メイクやファッションで、自分に自信を持つこともできる。
「今日の私はイケてる」そう思えれば、自信を持てる。
鏡の前で、自分に魔法をかける。
同性とのつきあいが苦手だった。周りじゅうが敵だった。
でも、彼女だけは、会ったときから崇めていた。私にないすべてを持っていて手の届かないところにあったから、嫉妬のしようもなかった。
少し、似たところがあった。性格の部分に。大切にしているものが似ていた。
それ以外は、まるで違う彼女の言動を、私はどんどん取り込んだ。スポンジが水を吸い込むように。
やがて彼女の周りが言い出す。「○子が二人いる…」 そのぐらい、私は彼女を真似た。意識したことではなかったけれど。
「それでいいの?」と言いつつ、彼女はよく耐えてくれた。私が立ち直るまで。
カウンセリングに通うようになる、少し前の出会いだった。
思春期の頃には、顔を上げて歩くことができなかった。そのぐらい、コンプレックスだらけだった。
外見の、コンプレックス。おそらくは、誰にでも少なからず経験のあることだろう。
自意識が過剰だったんだと思う。比較の対象を間違ってた。なれないものに、なろうとしてた。
ほんとうの問題は、外見じゃなかった。自分自身を受け入れることができなかった。
ときどき、鏡と向かいあって、心底不思議に思った。「これが、私?」
乖離と言うね。実体と心が離れてしまう。
そういうとき、奇妙な、ほわんとした気分だった。ボーッとしてるときに似た。
自分に自信を持てるなら、なんでもいいじゃないか。
外見を変えるのは、効果が早い。成果が目に見えてわかる。
綺麗にすることで、自分に自信を持てるなら、それでいい。
ボランティアで施設を訪問してる、メイクさんがいる。元気のないお年寄りでも、メイクをしてあげると明るく元気になると聞いた。
友人の子供が保育園に通うようになり、たくさんの子供を見た感想が「もう女なんだよ」だった。
女の子は、生まれたときから、一生、女の子なんだと思う。
コンプレックは、私のバネになった。服の選び方、メイクの技術、髪をブローする腕、そういったものが向上した。「私のやり方でよければ…」と、ヒトに教えてあげられるようになった。
鏡を見た女の子たちが、顔を輝かせる瞬間に立ち会えるのが、喜びだった。
どうして教えてくれるの?と、訊かれたことがある。秘密にしておきたいんじゃないの?と。
センスや技術を身につけて、人の役に立てる、人が喜んでくれる嬉しさを覚えたんだと思う。