あこがれのその人と
感傷的な思いをつづろう。
どこから語りだせばいいんだろうか?
私は書くことをしている。Web上にではない。タイプするのではなく、ボールペン―――そう、シャープペンでも鉛筆でも筆でもなく、ボールペン―――を手に持って、紙に文字を書くことをしている。
夢ノートというのを持っていて、私の“好き”だったり“望み”だったりを書き留めている。
みんな やるといいよ。
なぜって、たとえば1年後に見返してごらん。書いたことが叶っているのを知って驚くから。
そう、また叶った。
こう書いてあるの。
オシャレを知っている
薄手のニットが似合う
170㎝以上(男性なら)
私の求めている人間味のある人
話し合うことができる人
私が言いたいことを聞き取ろうとしてくれる人
仕事が好きな人
飲み物をすすらない
話しに花を咲かせたりできる
一緒に買い物を楽しめる人
そういう人と出会ったの。
同じマンションに住んでいる方だった。背が高く、細く、いつもオシャレで、あこがれた。
その人も犬を飼っていた。この辺りでは、そうでない人ももちろんいるけれど、犬を連れている同士で挨拶をする。私はあこがれのその人に会えば挨拶をした。
だけど、犬飼いの限界というのがあって、しょせんは犬を介している。犬を連れていなければそれとわかってもらえない。
私は化粧もせず、髪を整えることもしておらず、いつも帽子をかぶっていた。さらには、コロナでマスクもするようになった。顔なんて見えない。
あるとき、動物病院にいたら、その人が来た。もちろん挨拶をした。
犬を見てわかったと、その人は言った。そんなもんだよ。“私”を見止めてなんてもらえてないって、わかってた。
でも、でもね、私はその人にあこがれてたの。だから、言葉を交わせるというのに舞い上がってた。何をしゃべったかなんて、ほとんど覚えてない。ただ、嘘はついてない。今の私のあるがままを話しただけだと思う。
「またお話ししましょう」と、その人は言ってくれた。「下(=マンションのロビー)でもいいし、一緒に犬と歩いてもいいし」
嬉しかった。ただただ嬉しかった。
夢ノートに書いた物事は、おもしろいんだけど、そのまんまが叶うとは限らない。何がおもしろいかって、自分で思ってもみなかったような叶い方をすることもある。
私の望んだのが女性として現れるとは、思ってもみなかったのよ。
洋服が好きだった。―――いや、過去形ではなく。ずっと好きできた。忘れていた期間もあったけどね。
自分を飾るのも、作るのも好きだ。今はありのままの自分も好きだけれど、作りこんで演じるような自分も好きだ。
絵を描いていた。とは別にしても、絵が好きだ。「アート」と言ってもいいんだと思うけど、何かしら縁があった。
できないことがあり、できることもある。それらが収束していくようだ。この出会いに。